第8話「中世の国へタイムスリップなのだ」
「着替えもなにも、ぜ〜んぶアジスに取り残されちゃってるからね。着るものを買いにいきたいんだけど...?どこに行けばいい?」 朝早く迎えに来てくれたムハンマドにさっそく聞いて見た。 「ここ旧市街の真ん中に<スーク>があります。 塩スークに香料スーク、布スークに鍋スーク、珈琲豆スーク、木工スーク、干しブドウスークはサナア名物、そしてジャンビアスークに銀スーク、両替商もここにあった。本当に何でもありそうだ。 中国製のポロシャツが1000円程で売られていたが、私はガイドブックでお勧めと書いてあった買い物をすることに決めていた。イエメンの人達と同じ格好をするつもりだ。 ワイシャツの裾が長く、ワンピースのように膝下まである長衣は<ソウブ>。そして忘れてはいけないのがイエメンで一人前の男の象徴、腰にさす<ジャンビア>である。 郷に入っては郷に従えとばかりにさっそく身に付けてみた。 効果てきめん!どちらかといえば外国人に対して愛想の悪かったスークの商人達も、急に笑顔を見せてくれるようになった。 「さあ、イエメン・コーヒーのスークへ行ってみましょう」 よほどイエメン独特の衣装を尊重したことが気に入ったのか、ムハンマドが笑顔で誘ってくれた。 「イエメンではコーヒーの殻を煎じて飲む<ギシル>という飲み物があります。このことをイエメンコーヒーと言ってショウガの粉少々とたっぷりの砂糖をいれて飲みます。世界でもコーヒーの豆を使わずに普通は捨てている殻を使って飲んでいるのはイエメンだけだと聞いています。コーヒー豆は大切な輸出品なのでごく最近まで庶民の口にはほとんど入らなかったのです。」 コーヒーを飲むという文化の発祥地ここイエメンで、普通のコーヒーを飲む習慣が衰退していたとは驚きだった。最近になってやっとサナアにも喫茶店ができ、コーヒーを楽しむ光景が見られ、家庭でもお客様のおもてなしにコーヒーを振る舞うようになったらしい。 ギシルスークでは、コーヒーと同じ60kg入の麻袋いっぱいにコーヒーの殻ギシルが入れられており、1ロトル単位(約500g)で秤売りされていた。目安となる入れ物に山盛り入れるのがイエメン商人の心意気のようで、あちこちでこれでもかというように山盛りにしてやり取りしている光景が見られた。どうやらイエメンでのギシルは、日本の番茶といったポジションのようであった。通常のレストランにはコーヒーなど置いてなく、食事と一緒に楽しむのは圧倒的に紅茶である。獲れたてのモカマタリをいただける喫茶店の存在は残念ながらムハンマドの知るところではなかった。 「さあ、昼食を済ませて、まずは<バニーマタル地方>へ行くことにしましょう。これからの行程を地図で確認します。サナアからバニーマタル、そして紅海沿岸の港町ホディダへ入ります。紅海沿岸を南下してモカ港へ行き、タイズを経由してアデン、そしてサナアへ戻るという行程を計画しています。」 「OK!!-OK!!、その経路で行こう!そうと決まればまずは腹ごしらえ。どこでお昼にしようか?」 「では、イエメン門から旧市街地を出てタハリール広場の近くにあるアラブ料理のレストランへ行きましょう。」 イエメン門は「バーバルヤマン」と言い、城壁に囲まれた旧市街地へ行き来する為に作られていた5つの門の内の一つ。 現在では観光の出発点ともなっているイエメン門をくぐり、タハリール広場に向かって歩いていたときだった。 「:^¥;」_/@*%&...?」 なにやら解らないが、アラビア語でムハマンドに話しかけてきた一人の男がいた。 「久しぶりなので、彼の家で一緒に昼食でもと誘われたのです。私の友達はタカシのことも歓迎すると言っています。ダメでしょうか?」 もちろんOKに決まっている。 「ありがとう。ぜひおじゃまさせていただきます。」
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偶然訪れることになったイエメン家庭。
そのすぐれた建築様式にまたまた驚くタカシなのでした。
次回、その驚きの建築技術と、バニーマタルの美しさ、
そして現在のモカ港レポートにご期待ください。