第7話「モカ・マタリの国、イエメン到着」
さて、イエメンときいて、はたして何人の日本人がその正確な所在地を説明できるであろうか?.....タカシはもちろん知らなかった。 しかし、「モカ」と言うコーヒーの名前を聞いたことがある人は数多いだろう。ここイエメンこそ「モカ・マタリの国」なのである。 「モカマタリ」の「モカ」とは、珈琲貿易で栄えたイエメンの港町の名前であり、「マタリ」とはイエメンの「バニーマタル地方」からきた名前である。「バニーマタル」というのはアラビア語で「雨の子孫達」という意味だ。この名の通りバニーマタル地方は雨が降って適度の湿気があり、海抜も2000mぐらいでコーヒーの生育に適している。 イエメンを説明するときに良く使われるもう一つの地図がある。拡大図はこちら。 アラビア半島にある国のほとんどは砂漠に属するが、イエメンはめずらしくバラエティーに富んだ地形を持ち、さまざまな気候が見られる。その地形を示す断面図である。 幸福のアラビア。緑のアラビア。シバ王国。海のシルクロードの要地。世界最古の現存する都市。世界最古の摩天楼。イエメンを語る際によく使われる表現である。 サナア国際空港に到着した時にはもう日がとっぷりと暮れていた。 そして、回転していた荷物テーブルは今にも壊れそうな音を立て、やがて止まってしまった。 「私の荷物が出てこないんですが...。どうなっていますか?」 「荷物室がいっぱいだったので、積み込めなかった。あなたの荷物はちゃんとアジスに保管してある。」 「なんで勝手にそんな事をするのか?」 「あなたはいいほうだ。あの女性の荷物はどこにあるのかさえまったくわからないのだ。あなたのは明日の同じ便で届くので電話で確認してから取りに来ればいい。」 荷物がなくなったと言われた女性はさんざんやりあった後らしく、私のほうに向かって笑いながら首をすくめて見せた。良くあることといえばそれまでなのだが、やはり最初からケチをつけられたようで不安がよぎった。結果的にこのトラブルは私に幸運をもたらしてくれたのだが、このときは知る由もなかった。 イエメンは私が思っていた以上に観光国らしく、名前を書いたプラカードを持った出迎えが結構たくさん待っていた。その中に「TAKASHI」と書いたカードを持ってたたずむムハマンドを見つけるのにたいした時間はかからなかった。残念ながら当然女性ではなかった。しかし、いかにもアラビアといった雰囲気を醸し出す独特の衣装に身を包んだ人々の中に、自分を待っていてくれた人がいるというのはなんともうれしいものだった。 「TAKASHIです。ムハンマドさんですか?」 ちょっと気難しそうなその人に、笑顔で話しかけて見た。 「そうです。」そう言って私をじろっと見て「荷物は?」と聞いてきた。 挨拶もそっちのけで、今起こった頭にきたいきさつを説明しかけると、無愛想に「じゃあ行きましょう。」とあっさり話しの腰を折られてしまった。 「夜遅いのでタクシーでホテルまで行きます。いいですか?」 いいも悪いもほとんど予備知識なしで入国した私はムハンマドに任せるしかなかった。 「タカシです。宜しくお願いします。」 「ムハンマドです。日本ではマホメットの方がポピュラーみたいですね?同じなんですよ。 決して人は悪くないのだろう。愛想がよい訳ではないが、嫌われている訳でもなさそうだった。 首都といっても先進国の様なネオンに彩られた夜景などなく、どんなところを走っているのか、まったくわからなかった。 20分程走っただろうか 「えっ?まだ両替なんてしてないよ。米ドルではダメ? 運転手と何やら交渉していたムハンマドの言う通り5ドルを払って事なきを得た。 「このホテルは外国人に人気があるイエメン式のホテルです。ゆっくりお休みください。明日朝9時に迎えに来ます。早起きしたら、屋上に登ってみるといいですよ。では、おやすみなさい。」 ホテルの名前は「Taj-Talha-Hotel」タージ・タルハ・ホテル。 ムハンマドに言われたように早起きして屋上に登って、一瞬にして私はイエメンのとりこになった。
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第8話は美しいイエメンの写真満載でお送りします。
お楽しみに!