アジスに帰った私はさすがに疲れていて、次なる目的地ハラールへの打ち合わせをしようとする元気なアベベの提案をさえぎってしまった。
「一日アジスでゆっくりとくつろぎたいんだけど、つきあってくれる?」
「OK!OK!、ゆっくり休む大切ね。おいしいもの食べてよく眠ればいいヨ。」
アベベがお勧めのホテルは<バロホテル>。
(場所が知りたい人はもう一度アジスの地図をどうぞ!)
ピアッサ地区の中では高級な方で、ゆっくりとくつろげるカフェテラスが、ありがたかった。
対照的に、隣の<ナショナルホテル>は、グランドフロアーにバーがあってかなりにぎやかそうだった。(実はその夜一人でこわごわ少し覗いたのだが、バーにはその筋の女性が沢山いて.....?.....興味はあったが勇気がなかった。アベベにはナイショである。)
エチオピアの安宿は<ブンナベット>と呼ばれている。
ブンナはコーヒーのこと、ベットは部屋の意味であり、バーと宿がくっついているのが普通のようであった。
たいていの町や村にはブンナベットがあるので、旅人にはありがたい。
料金も安くて、アジスでも8〜10Birr(200円)もあれば泊まれるのである。
バロホテルのホットシャワー付ルームは、1泊40Birr(800円)とかなり高かったが、ちゃんとお湯も出て快適だった。とはいっても、お布団へのシューと一吹きの殺虫剤は忘れてはならない常識のようであった。
日本製殺虫剤では、ほとんど効き目がないというのはよくある話のようで、アフリカ旅行経験の豊富な知り合いから聞いた方法も試して見た。
石鹸水を作り、布団の縫い目にそろ〜りと垂らしていくのだ。
ホテルに入ったらまず最初にすべきこととは聞いていたが、実際に足が水玉模様になってカイカイ状態にならないとピンとこないものである。
初日の曝睡で十分思い知らされていた私は、当然、たっぷり時間を掛けて石鹸水の儀式をまず行った。
おなかがすいたので、大好物になった「ドロワット」を食べに出かけることにした。
コーヒー好きのエチオピアの人々がどんなものを食べているのか、チョット興味あるでしょう?
アフリカで最もおいしいと評判のエチオピアの料理を、ここで紹介しましょう。
エチオピアの主食はアムハラ語で「インジェラ」と呼ばれている、クレープの様なかたちのパン?です。
紀元300年頃のアクスム王朝のころから食べられてきたとされる、国民食です。
インジェラは日本の「ごはん」のようなもので、おかずとしてこれに欠かせないものが「ワット」です。
ワットはシチューあるいはカレーと思っていただければ正解です。
このインジェラとワットはこんなふうに提供されます。
小さいお皿に入っているのがワットです。
その下に、新聞紙かボロギレのようにベロ〜ンと大きなお皿の上に置いてあるのがインジェラです。インジェラをちぎってワットをつけて食べます。
必ず神聖とされる右手で食べます。
それなりのレストランでは食前後に手を洗うための水と石鹸とタオルを持って給仕さんがやってきます。ポットに入った水を洗面器のような物で受けてくれるので席についたまま手を洗えます。
発酵してチョッピリすっぱいクレープに、かなり辛いカレーをつけて食べるような感覚です。
空港に降り立ったときに鼻をついた臭いは、ワットを作るのに欠かせない「バルバレ」という香辛料でした。細かく砕いた唐辛子に何種類かの香辛料を混ぜたものです。
酢と黒砂糖を混ぜたような臭いとでもいいましょうか?独特の臭いがします。
しかし、私は、はまりました。
最初は非常に癖があるため食べずらかったのですが、慣れるとこれなしでは物足りないほど気に入ってしまいました。
特にとり肉を使った「ドロワット」がお気に入りとなりました。
この他にワットには、豆類を塩ゆでにした「シュロワット」
羊の挽肉を炒めた「カイワット」
インジェラの上に少しずついろんな具を乗せてもらえる「ワットバイナイヤット」などがあります。
もちろん、酸っぱいのや辛いのが苦手な人の為にこれ以外の料理もあります。
1936年から5年間イタリアの統治下にあったため、ホテルのレストランはだいたいイタリア料理がベースとなっているように思います。
スープやスパゲッティ、ステーキや魚のフライあるいは羊の骨つき肉などが食べられます。しかし地方にいくとインジェラ&ワット以外には、具の無いスパゲッティかオムレツそしてパン(ダボ)ぐらいしかありません。
そして、最も危険でおいしい料理として、「トゥレスガ」があります。
もてなし料理の、牛の生肉のたたきです。トロの刺身のようでたいへんおいしいのですが、自分のお腹と真剣に相談すべきです。
「ハラールへは飛行機じゃ〜なくて、列車で行って見たいんだけど...どうかなあ〜?」
一日充分休養をとった私は、今日見つけたラガール駅からの列車の旅をアベベに提案してみた。エチオピアに1本しかないという鉄道(アジス-ジブチ間)にどうしても乗って見たかったのである。
「飛行機より時間がかかるけど、列車もいいね。ちょうど明日はアジス発の列車がある日だよ。でも帰りは飛行機にしたほうがいいと思うよ。」
蜂蜜を醸造した酒「テッジ」で次なるハラールの旅の安全を期してアベベと何度も乾杯した。
観光客はほとんど利用しない列車などとは知りもせず、上機嫌で夜はふけていった。
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