第35話「いよいよ岡山にやってきた!」
岡山城だよ!


「さあ、ラッキー! いよいよ僕の地元・岡山の珈琲物語に突入だよ!
 まずは、岡山県人の中で、一番最初にコーヒーを飲んだのはいったい誰なのか?
 その一杯目のコーヒーを、はたしてどこで飲んだのか...? こんなことわかるかな〜?」

長かったが、とうとう地元まで辿ってきたタカシは少々興奮ぎみにラッキーに話しかけた...

「............?............?*+』<...........」

「えっ...?」

「..................................................................」

「なに...?」

「記憶にございません!」

「ええぇ〜っ...?」

「いや〜、わての記憶装置には岡山というデータは、な〜んも入ってませんわ。
 今までにも何度か紹介してきました先生たちの文献しかわての頭にはありまへんさかいな〜
 岡山のコーヒーだけのことに関して書かれた文献はないっちゅうことやろな〜...」

「ことやろな〜...って、なんとかならへんの?」

「そこがハイテク機器のつらいとこやがな〜。ないっちゅうもんは、ほんまにな〜んにもありません!」


という訳で、ここからは、タカシが実際に足で稼いだ
岡山のコーヒー情報をドキュメントでお届けするとい
う、なんだか大変なことになった倉敷珈琲物語でした

さてさて、岡山のそして倉敷のコーヒーの歴史を紐解
くことができるでしょうか.....? 現在も取材進行中!



ラッキーに頼りっぱなしだったタカシは、なにから始めれば良いのかさえ分からなかった。

<岡山の古そうな喫茶店に入って聞いてみようかなあ〜?
 いや、まてよ...、だいたいいつ頃なんだろう?
 日本に伝わったのが江戸時代、最初の喫茶店が明治時代、日本各地に喫茶店が進出したのはカフエーパウリスタの大正初めだから...??? >

 ひとり思案してみても、さっぱり???のタカシだった。

「こういうときはやっぱ図書館やで〜!」と、ラッキー。

「そりゃ〜そうだ。やっぱ、今の喫茶店に入っても解る訳ないよね〜。よしっ、図書館に行こう!」

こうして私とラッキーは、岡山県立図書館へ向かったのでした。

岡山県立図書館

岡山城の近く、城下交差点から県立美術館の裏手に入ったところに県立図書館はある。
自動車で出かけた私達は、図書館の駐車場まで入って行ったのだが、満車だった。

<まっ、空いてる訳ないか...> そう独り言をいいながら近くの駐車場を思い浮かべてみた。

結局、岡山城の外堀沿いにある路上駐車場に止めることにした。
四角く白い線が道の左脇に書いてあるやつ、そう、90分300円の駐車場だ。

<気持ちいい〜!> 
車から降り、ドアを閉めるとおもわず、口から飛び出した。

昼前の陽射しが、冷たくピンと張り詰めた空気を少しずつほぐしている、そんな日だった。
ちょっとお腹がすいてきたけど、後でゆっくり食べようと決めて、図書館へ急いだ。
天神そば.....すぐ近くにあるうまいラーメン屋が頭をよぎっていた...

2階の入り口から入ってすぐ右手に郷土資料コーナーはあった。

かなりの蔵書があったが、目指す目的にかなう本はなかなかみつからない。
風俗、文化、食べ物、目に付く書物を片っ端から手にとっていったが、全く手がかりになりそうなものに当たらない。ひたすら「コーヒー」という文字を捜して、ページを機械の様にめくるのである。
そうしているうちにあっという間に小一時間がたってしまっていた。

<このままじゃ〜いくら時間があったって足りりゃ〜しないや、聞いてみようか?
 でもなんて聞こう? そんなの解るわけありません、なんて言われたりして.....>

さんざん迷った挙句、決心して係の人に聞く事にした。

「すいません...コーヒーの事に付いて調べているんですけど....ちょっと伺ってもいいですか?」

「はい、どんなことでしょうか?」やさしい声で対応してくれたのは若い女性だった。

「あの〜、岡山の人のなかで一番最初にコーヒーを飲んだ人を捜しているんですが...なにかそんなことが解る文献はないでしょうか...?」

「最初に飲んだ人ですか...? ちょっとお待ちください」

そういうと、少し奥の中年の男性になにやら相談をしてくれている...
やはり、こんな質問に答えられるような本はないのだろう...
ふたりは、ああでもないこうでもないと、一生懸命私の難題に答えようとしてくれている。

カウンターにいるタカシの方へやさしい笑顔でその係の男性が近づいてきた

「最初に飲んだ人ですか...はっきりとそう書いてあった訳ではないんですが、以前洋学者の中で岡山の学者がコーヒーについて何かを書いていたと聞いたことがありますもんで、ちょ〜っとまっとっていただけますか?調べてみますんで...」そういいながら、奥へと消えていった。

気が付くと最初に尋ねた女性もあれこれテキパキと何やら捜してくれている。

<ボクの気紛れにこんなに一生懸命付き合ってくれて、申し訳ないようなうれしいような...
 これで、何か見つかったら最高だよな〜...>

もしかしたら、何か解るかも...私の期待は大きくなっていったが、時間と共にまた小さくなりかけていた。ちょっと...と言ってくれたのだが、もうかなりの時間がたっていたからだ。
 なんだか申し訳ない気持ちの方が大きくなってきた。そんなとき...

「いや〜、大変お待たせしました。やっぱり岡山の人でしたよ。宇田川榕庵いう人で、ほらここに...」

満面の笑顔とともに一冊の書物を手にして係の男性が帰ってきた。

『近代科学をひらいた人々』-岡山の洋学者-岡山県立博物館編- 書物の名前はこうだった。
ほらここにと開いて見せてくれたページの左上には「宇田川榕庵」の名前、右ページの中央よりに目指す文章は載っていた。

『宇田川榕庵は寛政10年(1798年)生まれ。             
 幼少より博物学を好み、19歳でコーヒーの解説書「哥非乙説」を著わした。

「19歳ということは、1816年か...。この時には宇田川榕庵はコーヒーを本当に飲んでいたんでしょうか?」

「いやぁ〜そこまでは私にゃ〜わからんです。
 ただ、日本で最初にコーヒーの植物学的な解説を著わしたものであることは間違いないですよ。」

「この「哥非乙説」という解説書はここにないんでしょうか?
 あるいは、そこになんて書いてあったかが解る様なものは...?おいしいとか、にがいとか...?
 それと、この宇田川榕庵はどこの人なんですか?」

「津山藩おかかえの医師として仕えていた宇田川家の一人です。
 ここにゃ〜もう他の資料はありませんですわ。
 おたく、もっと詳しゅう知りたいんじゃったら、津山の洋学資料館へいってみりゃ〜よろしいのに...。」

そう言いながらメモ紙に「津山洋学資料館」と電話番号を書いて手渡してくれた。

「本当にありがとうございます。行ってみます。
 それからさっきのページをコピーしていただけますか?」

本当にうれしかった。すごいヒントが見つかったのだ。コピーを受け取り帰ろうとしたとき...

「あのう...これなんかも何かの役にたちませんでしょうか?」

 最初に対応してくれた女性が一冊の本を手渡してくれた。

『岡山始まり物語』 岡長平著

「ちょっと見せてください...」

ラムネ、アイスクリーム、生ビール、岡山で最初に登場した頃の記録が非常に詳しく楽しく綴られていた。そして、バターと練乳、コーヒー....

<あった、あった、岡山の地で最初にコーヒーを飲んだ人、どうやってコーヒーを手にいれたのか、いつ頃の話なのか...ぜ〜んぶ書いてある。>

私はあまりの興奮に思わず声を出しそうになりながら一気に目を通した。

「ありがとうございます。これ欲しい所全部コピーさせてください。」

 予想以上の大収穫を手にして図書館を出た。もう3時間近くも図書館にいたことになる。

<本当に親切にしてもらったなあ〜。それにこんなに収穫もあったし、次の目的地も決まったし。
 今日は最高だネ!!!>

少し強くなった心地よい陽射しを浴びながら駐車場にルンルン気分で帰った私の目の中に飛び込んできたのは、自分の車のバンパーに黄色い鎖がぶら下がっている光景であった.........

ウッソォー・・・マッジー...???


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次回は津山へ宇田川榕庵を尋ねますよ〜       
いや〜津山洋学資料館がなかなかいいとこなんですよ!